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　２３号　　彼女は死んだ。ぼくのせいだ

今、ボクは十六歳、明日私の運命が決まる。少年院送りか保護監察処分かどちらかだ。後から反省すれば、何で？ と言うようなことを、悪いこととは考えずに、いや考えてはいたけど深くは考えずにしてしまった。

夏休みに入った二十一日、いつも通るバス停のかげの草むらに、もう二週間もの間単車がおいてあるのに気づいていた。雨に濡れてホコリをかぶって汚れて古びていたが、廃車でなく盗難放置車、ヤマハターゲット九〇・台湾製のスーパースクーター、空冷八二�t自動無断変速、前後サスともオイルダンバーを備えているすごい奴だ。キーも多分下に落ちているキー、多分あけだ。

二十日の夜、最終のバスが出て無人になったとき、こっそり行って単車をゆすってみたらガソリンは入っていた。タパン、タパンと音がした。キーを回してもカチット言う音だけ、ライトも点かない。回りをみても誰もいなかった。ボクはどうしても乗りたかった。

重かったけれどボクは約一キロ先の家まで引っ張って行き、誰にも見咎められずに裏の薮の中に隠しておいた。

バッテリーは前もって同じ形のを買ってきといたので、外して交換した。

街灯の薄明かりで、キーをそっとまわすとチリチリチリチリバゥーンとエンジンがかかった。慌てて切ったが、家族はプロ野球をＴＶで見ていたせいか気づかれなかった。蚊にいっぱいくわれて痒くて仕方なかったが何故か心ははしゃいでいた。

　風呂から上がったのが十二時ごろだったが彼女に電話した。彼女は中学の同級生、高校は別だが仲良くしていて親同士もよく知っている。遅くかけてもたいていはおばさんが出て切り替えてくれる。明日ボート乗りに行こうと言うと、「そんな遠いところ、どうやって行くの？」と聞いたので、「委しとき」といって電話を切った。お弁当作ってくれると彼女が言ったときは、何故かどきどきした。

朝早く起きて、お父うの車からすこしガソリンを抜いた。多分三〇キロはもつと思った。十時にきれいに磨いてエンジンをかけた。ヘルメットは前にパチンコ店の入り口においてあったのを修理してもっていた。 アクセルをふかすときは少しふらつくが、初めてにしては順調に動き、人通りの少ない畑の道をとおって約束のコンビニエンスの前に出たときには、すでに彼女が待っていた。

　彼女は「何？、どうしたんの？、誰の？、免許いつ取ったの？」と聞いたが、「まあいいから」と乗せ、ヘルメットをかぶせてあげてできるだけゆっくり県道を避けてダムに向かった。

車は快適だった。彼女が腰に手を回しているのも心地よかった。走行中に耳元に大声で「ガム食べるー」とポケットの暖かみのあるガムを口にいれてくれるのも奇妙に興奮した。あのときは幸せ一杯だった。

あとこのカーブをまわればボート場に着くと言うところで、国道を横切ったとき、突然後ろからサイレントスピーカーが鳴り響いてパトカーが現れて、「その単車止まりなさい。」と追い掛けて来た。

「どうして？」と彼女が叫んだとき、どういうことか自分でも分からないけれど、アクセルを一杯踏んでしまった。「止めて」と彼女は言ったけど、手はアクセルから離れずスピードが上がってしまった。そしてダムの上に続く細い小道に車は跳ねながら突っ走った。どうして逃げたのか今でも分からない。 後ろから上がって来れないパトカーがスピーカーで何かを叫んでいたけど意味は分からなかった。

突然、明るくなってぶつかった。

一瞬で分からなかったが、釣り人のバイクと衝突したとは後で分かった。釣り人はダムの方に落ちてすぐ見えなくなった。「わあっ」と言う声と「キヤッ」と言う声を聞いて彼女を見た。ボクは単車の下敷となったが、彼女は木に頭をぶっつけ、ヘルメットが割れていた。近寄って起こすと少し動いたけど、口から血を流して息をしていなかったようだ。ボクは泣いた。「話をしてよ」「動いてよ」「なんとか笑ってくれよぅ」と拝んで頼んでもだめだった。警察の人が来てボクと彼女は引き裂かれた。彼女は死んだ。

ボクは彼女を死なせ、釣り人に全治五カ月の重傷を負わせ、ボク自身二カ月の骨折、そして彼女の家とボクの家は付き合いがなくなった。お父うは、申し訳無いと彼女のお父さんの会社を辞め、弟は学校でいじめにあっていると聞いた。自分の起こしたことが家族の総てに影響を及ぼすなんて考えたこともなかったが 、自分があるのは回りがあったからだと今分かった。総てを失ってしまった。

そして、彼女にお詫びの言えぬまま、墓参りもできぬまま運命を待っている。

ボクのこれからは、償いの日々となると聞いている。